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カナダの東部沿海地域に留学して(寄稿:高野麻衣子、関東地区ニューズレターNo.4, Aug. 2010)

カナダの東部沿海地域に留学して

高野麻衣子

2009年度は大学院研究生としてカナダのダルハウジー大学で学ぶ機会を得た。ノヴァスコシア州のハリファックスに位置するこの大学は、ノヴァスコシア植民地総督であったジョージ・ラムジーにより1818年に創設されたのが始まりである。現在は学部生と院生を併せて1万5千人程度の学生が学んでいる。学生と教員の比率は14:1であり、授業は比較的少人数で構成されるため、カナダ人の院生に交じって議論に参加しやすい環境であった。また、かつてイギリスが築いた要塞のあるダウンタウンや、ヨーロッパからの移民の窓口となったハリファックス港には大学から徒歩で行くことができる。そのため学業のちょっとした合間にも主要な史跡や博物館等を巡り、東部沿海地域の歴史を実際に目で見て学ぶのに優れた環境であった。

周知の通りノヴァスコシア州は1848年にカナダで初めて責任政府(今日の議院内閣制に基づく自治)を獲得した地域である。こうした歴史的背景は、私が在籍した政治学研究科の学風にも反映されている。とりわけ議院内閣制のメカニズムに関する研究・教育が充実しており、カナダで長年にわたって議論が続いている上院や選挙制度改革など、「個々」の制度を変革した場合に政治システム「全体」が健全に機能するか、あるいはしなくなるのかということを重点的に検討する。例えば、政党のエリート主義を生んでいるといわれる党議拘束の問題を挙げると、私たち大学院生は、なぜ党議拘束の緩和が必要なのか、また、いかなる手続きによって緩和しうるかといった点に議論を集中しがちであった。しかし、議院内閣制はアメリカ合衆国のような大統領制とは異なり、一定程度の党議拘束を前提として成り立つものであるため、党議拘束の緩和の仕方や程度が、議院内閣制に期待される本来の機能に大きく影響する点を担当教授から指摘された。したがって、個々の制度の“form”と併せて 政治システム全体の“function”を慎重に検討する必要性を認識した。

また、東部沿海地域を訪問するのは今回が初めてだったため、この地域で一定期間を過ごしたことにより得られたものも多かった。大学院では、これまでにアルバータ、ケベック、ノヴァスコシア州での居住経験のあるカナダ人学生に出会った。同じカナダとはいえ、他地域の環境に身を置くことで初めて理解し共感できるものがあるという彼女の言葉には重みを感じた。留学中は東部沿海地域の人々が連邦政治に対して持つ政治的な感覚を把握したいと考え、この地域の主要紙であるThe Chronicle Heraldを読むようにした。ハリファックスでの生活を始めてからしばらくすると、自分がいかに限られた視点や基準をもとに、実際には複雑な利害の絡み合う連邦政治を眺めていたかということに気づかされた。

例えば、州間の1票の格差をめぐる論争を挙げることができる。格差を生む一要因には、下院の州別議席数が人口比例の原則から大きく逸脱しているという問題がある。したがって、どの州にも上院と同じ議席数を保障しつつ、下院の議席数をできるだけ人口に比例させる手続きを定めることが連邦政府の中心的な課題であると私は認識していた。しかし、留学中にアルバータ、オンタリオ、ブリティッシュ・コロンビア州の下院議席を全部で30議席増加させる法案が提出された際、東部沿海地域では、“Regions do matter. That was the deal at Confederation.”という主張とともに反発が生じた。この地域の人々が人口比例の原則を真っ向から否定しているわけでは決してないが、下院でも「地域」が考慮されるべきだという立場をとる点で、彼らにとって人口比例の原則は絶対的なものではないといえる。他の制度との関係で政治システム全体の機能をみると、カナダの上院は連邦制の機能を必ずしも持ち合わせていないため、上院と下院からなる立法過程で州や地域の声が十分に代表されているとはいえない。この点を踏まえると、東部沿海地域が「個人」と併せて「地域」の考慮を下院に求めるのは理解できる。下院議席の人口比例配分は今日多くの国が採用しているため、基準としてほぼ絶対的なものだろうと私は理解していた。しかし、そうした個々の制度に対する一般的な原則に引きずられることで、政治システム全体の機能や特定の地域あるいはマイノリティの声を見落としうるという問題を新たに認識した。

東部沿海地域への留学は、カナダの多様性に触れる良い機会になった。留学中に学び、経験したことを連邦政治と地域の問題を検討する自身の研究に活かしたい。

(東京大学大学院 *寄稿いただいた2010年8月時点。現在は国士舘大学他、兼任講師。なお、紙版では写真を2枚掲載させていただいたが、ここでは割愛した。)

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