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マルチナショナル連邦制――ケベックから見た望ましいカナダ連邦の姿とは(寄稿:丹羽卓、関東地区ニューズレターNo.7, Aug. 2012)

マルチナショナル連邦制――ケベックから見た望ましいカナダ連邦の姿とは

紹介:アラン=G.ガニョン、ラファエル・イアコヴィーノ著『マルチナショナリズム: ケベックとカナダ・連邦制・シティズンシップ』(彩流社)

丹羽 卓

 「ケベック問題」はカナダにとっていつも厄介なものである。ただ、それはケベック以外のカナダ(ROC)からの見方であって、ケベックにはケベックの言い分がある。それを詳細に述べ、カナダ連邦制を検討し、そして現在のカナダ-ケベック関係の閉塞を打破すべくひとつの新しい連邦観を提唱する。それがマルチナショナル連邦制で、その提唱こそが本書の主眼である。
 第1章では、単一国家内には均質なシティズンシップしか認めないという、自由主義的な民主制の限界について論じている。現代カナダも、トルドー以降の個人権の絶対的優位の考えに立ち、「建国の2つの民」というケベックの伝統的な主張を退けている。それが、いまだにケベックが1982年憲法を承認していないことの根底にある。著者はこの状況を打開するために、カナダがマルチナショナルな国家であって、そこでは均質なシティズンシップではなく「差異を認めたシティズンシップ」が認められなければならないと主張する。以降の章でその主張の論証が行われる。
 第2章では、カナダの立憲主義の歴史的歩みを振り返り、マルチナショナルな民主制における立憲主義の姿が語られる。その際の基本認識は、ネイションとは社会を構成する様々な集団(エスニック集団、性的マイノリティなど)とは異なるということである。1982年憲法がそれを同列においてしまったことにこそ問題があり、カナダをマルチナショナル国家と捉えなおす必要があると論じている。
 第3章では、カナダ連邦の理念型をめぐる3つの見解が検討されている。契約理論、イントラステイト連邦主義そして中央集権的な連邦観である。著者は、カナダ連邦の歴史を振り返り、それが常に中央集権的な連邦主義に有利な形で展開し、フランス系カナダやケベックが望んできた「承認」を与えることがないとの批判を展開している。
 第4章では、カナダとケベックにおける統合モデル――マルチカルチュラリズムとインターカルチュラリズム――を比較検討している。著者によれば、カナダのマルチカルチュラリズムは個人権の保障を最優先と考え、文化的承認は、法的・手続き上のものに過ぎず、そのめざすところは同質的なカナダ・ネイションの構築である。それに対して、インターカルチュラリズムは、文化間の民主的な対話を重視し、マイノリティ文化をエンパワーし、公的空間への参加を促進することを目的としているとされる。このモデルはケベックというネイションへの統合をめざすのであるから、その実現のためには、ケベックがカナダにおける独自のネイションであることの承認が不可欠となるのである。
 第5章では、シティズンシップ論の理論的検討を踏まえて、マルチナショナル型シティズンシップの可能性が考察されている。国民国家と中立的個人権を前提とした自由主義的シティズンシップ論では、シティズンシップの基礎としての社会的・文化的アイデンティティを、また、政治共同体の問題を解決できないことを明らかにし、新しい枠組みとしてマルチナショナルな民主政を導入することを提唱している。
 第6章では、まず1995年のケベック州の住民投票以降の2つの重要な事柄、「ケベックの分離に関する意見照会」に対する最高裁の回答が持つ意味を高く評価し、逆に「クラリティ法」を厳しく批判している。次に、それに基づいて、カナダの将来的展望として、多様な共同体の共存と積極的な市民参加を特徴とするマルチナショナリズムを軸とした連邦制とシティズンシップのモデルを提示している。そして、ケベックが独自憲法を策定し、ROCおよび連邦政府との交渉を重ねて、最終的にそれが承認されるという手続きこそが、現在の閉塞を打開する望ましい方策だと結論付けている。
 カナダについて論じるのに、ケベックの側から論じた日本語文献は極めて少ない。その意味で、ケベックの人々が何を望んでいるのかを知るのに、本書は恰好の手がかりを与えてくれる。また、カナダの政治史をケベック側から見るとどのように見えるかについても示唆に富んでいるので、是非一読されることをお勧めしたい。
(金城学院大学)

* 執筆者はアラン=G.ガニョン、ラファエル・イアコヴィーノ著『マルチナショナリズム: ケベックとカナダ・連邦制・シティズンシップ』(彩流社)の監訳者。

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