HOME▶コラム▶カナダの大学における#MeTooムーブメントの現状(寄稿:内野三菜子、関東地区ニューズレターNo.16〔March 2018〕より転載)

カナダの大学における#MeTooムーブメントの現状(寄稿:内野三菜子、関東地区ニューズレターNo.16〔March 2018〕より転載)

カナダの大学における#MeTooムーブメントの現状

 

内野 三菜子

 オタワ・カールトン大学の音楽学部は日本でイメージする「音楽大学」とは様子が少し異なる。クラシックよりは寧ろポピュラーやジャズの分野に強く、Artist in residenceはフィンガースタイルギタリストやシンガーソングライターが招かれている。ケルティック音楽の専攻コースや、「多様性のカナダ」を意識したアジア音楽との交流プログラム、首都にある強みを生かした国会議事堂Peace Towerのカリヨンと連携したカリヨン演奏のコースなど、カナダの他の大学と比べてもユニークなプログラムが多い。筆者はトロント大学大学院在学時に始めたカリヨンの研鑽のため、現在カリヨン演奏専攻コースに在籍している。
 そのカールトン大学の音楽学部で、学部生全体を集めた冬学期冒頭の必須講義では今回、あるトピックが特別に取り上げられた。#MeTooに始まる一連の流れにつながる、セクシャルハラスメント・パワーハラスメントに関する情報提供と意識共有のセッションである。冒頭の「この問題についての取り組みは大学としてのものであるが、今回のムーブメントがショービジネスから始まったことを見てもわかるように、特にentertainmentの業界はこの問題は避けて通れないし、1対1での教授方法が中心となる音楽学部は最もvulnerableな環境だと認識している」というコメントからは、学部生・卒業生を守るというスタンスと共に、将来的に加害者に回らないように教育することも教育機関としての務めである、という大学側の認識も伺えた。カナダのショービジネスにおける#MeTooムーブメントの例としては、トロントを拠点とする劇団、ソウルペッパーカンパニーの主宰・アルバート・シュルツの辞職があげられる。ちょうど辞職のタイミングから程ない時期の講義でもあり、それもあって参加者の関心が高かった部分はあるだろう。講義そのものは「当大学・アカデミアの場においては、ハラスメントは許さない」というメッセージの伝達で、「こういうものも当てはまる」という例示は具体的かつ詳細であった。特にハラスメントの対象・該当事例・予防及び解決の提案には広く人種差別とそれに対する配慮なども含まれており、今回の#MeTooには、普段からの配慮に加えたより一層の注意を喚起する意味合いも含まれていることが感じられた。
 しかしながら、これもまたカナダに住んでいるとよく遭遇する事ではあるが、理想を唱えるのは声高でも実質を伴わない場面はここも同じであった。「No is No」と繰り返される主張について実際の具体的な事例はどうやって解決するのか、匿名での事例共有で注意喚起するのか、をレクチャー担当に尋ねたところ、返ってきた答えは「学生の名前は匿名の条件で、当事者に大学側から直接話して理解してもらう」であった。音楽学部の教官と学生の関係は極めて近い。いくら匿名にしようとも楽器によっては1対1の場合もあり(カリヨンはそうである)直接の対話では匿名も全くの意味をなさない。これには非常に失望したが、現時点では実効性を伴わないお題目だけでも無いよりはマシ、という文脈で評価するべきところなのだろう。
 本件に限らず人種・性別その他の「配慮」は、往々にしてマジョリティ側の自己満足や綺麗事に過ぎないという批判は必ず付いて回る。#MeTooのカバーするものが性別だけではない、という認識が共有されやすく、自己満足であってもその都度確認し、共有せずにはいられない、ある種の強迫観念めいたハラスメント配慮が生じる現象は、ある意味「カナダらしい一面」かもしれない。今後、在学生卒業生を含むコミュニティでどのようにこのワークショップの成果が展開するのか、長期間の経過観察が望まれる。(カールトン大学)

(日本カナダ学会関東地区ニューズレター No.16, March 2018より転載)

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