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カナダ連邦政治の現状(寄稿:仲村愛、関東地区ニューズレターNo.16〔March 2018〕より転載)

カナダ連邦政治の現状

 

仲村

1. はじめに

 早いもので、ジャスティン・トルドー首相率いる自由党政権も任期の半ばを迎えた。ハーパー前保守党政権が長期政権だったためか、或いはトルドー首相自身の若々しい雰囲気のためか,トルドー政権はいつまでも「新」政権である印象をどことなく保持しているのは気のせいだろうか。しかし、現実には2015年総選挙からすでに2年5ヶ月が経過し、連邦政治は、2019年の次期総選挙に少しずつ向かい始めている。

 本稿では、2017年の連邦政治の動向を振り返りつつ、現時点の政局を概説していく。尚、本稿の内容は全て公開情報と筆者自身の見解に基づく私見であり、何ら大使館の意見を代表するものではない。

2. 野党

 2017年は野党の様相が大きく変化した年であった。連邦の野党4党のうち、保守党、新民主党(NDP)及びブロック・ケベコワの3党で暫定党首を据える事態が長く続いていたが、2017年秋までにようやく全党の正式な党首が選出され、形の上では党としての態勢が整った。

(1) 保守党

ScheerAndrew_CPC5月に保守党党首選が実施され、若手で知名度の低いアンドリュー・シーア(Andrew Scheer)下院議員(サスカチュワン州選出)が最有力候補者を破って勝利した。現在38歳のシーア新党首は、2004年に連邦下院に初当選し、ハーパー政権時代に若干32歳というカナダ史上最年少で下院議長に任命された実力を持つ。シーア党首の政策はハーパー前首相とほぼ同一であるが、誰からも好かれる人物だと言われる。フランス語も流暢に話す。全国的に知名度が低いことが課題である。

(写真出典: House of Commons Canada site)
https://www.ourcommons.ca/Parliamentarians/en/members/Andrew-Scheer(25454)

 

(2)新民主党(NDP)

Jagmeet_Singh 昨年10月にNDPの党首選が実施され、やはり若手で人気上昇中のジャグミート・シン(Jagmeet Singh)氏が選出された。シーク教徒のシン党首は連邦政党の党首としては初のヴィジヴル・マイノリティである。党首選出時にはオンタリオ州議会議員を務めており、現在も下院には連邦議席を有していない。シン党首は両親がインドから移住した移民2世で、フランス語を含む複数の言語を話すことができる。カラフルなターバンにスーツを着こなすおしゃれな政治家として、男性ファッション誌GQにも取り上げられる等、注目が集まっている。そのようなキャラクターや政治家としてのスタイル、さらに進歩社会主義的な政策志向はトルドー首相と共通点が多く、今後どこまで自由党の支持者を取り込めるかが注目される。なお、シン党首は現在39歳であり、連邦主要3政党の中で46歳のトルドー首相が最年長となった。

(写真出典: Legislative Assembly of Ontario site)

http://www.ontla.on.ca/web/members/members_all_detail.do?locale=en&ID=7166

 

 

(3) ブロック・ケベコワ(BQ)

Process.aspx 昨年3月、連邦レベルにおけるケベック州の分離主義政党であるBQの党首選に出馬していたマルティヌ・ウエレ(Martine Ouellet)氏が無投票で選出され、新党首として承認された。ウエレ氏は、現在ケベック州議会議員(無所属)であり、連邦下院には議席を有していない。ケベック州の主権獲得をあくまで目指す強硬派として知られる。従前よりBQでは、ケベック州の主権獲得に固執する強硬派とBQの下院における優先課題はケベック州の利益保護にあると主張する者の間で党内の意見対立が続いており、ウエレ党首は就任以来、党内の分断を深める一方でその指導力に疑問が呈されていた。そのような中、2018年3月1日、下院に議席を有する10名のBQ党員のうち、ウエレ党首に対立する7名がついにBQを離脱(正確には、下院のBQコーカスからの脱退で、党籍は維持)し、BQ下院議員は3名になってしまった。現在、ウエレ党首への辞任の声が高まっているが、ウエレ党首本人には辞任の意向はなく、2019年次期連邦総選挙に出馬する意欲を示している。

(写真出典: Assemblée nationale du Québec site)

http://www.assnat.qc.ca/fr/deputes/ouellet-martine-8431/index.html

 

3. トルドー政権

 昨年は、ケベック・シティとエドモントンでテロ事件が起きたものの、連邦結成150周年は成功裏に終わったと言えよう。また、トルドー政権は昨年1月に誕生したトランプ米政権への対応も余儀なくされたが、当地メディアの論調としては、対米関係の度々の難局に善処しているとの見方が多い。さらに経済も良好である。

 しかし、政権任期半ばにあたっていた2017年は、全体としてみればトルドー政権の失点の方が目立つのが正直なところだ。長く続いたトルドー政権の「ハネムーン期」も過ぎ、公約をただ宣言するのではなく実行に移すことが求められ、メディアや国民世論から厳しい視線で評価されるようになった。

 昨年は、2016年末のクリスマス休暇問題—トルドー首相とその一家及び複数の自由党議員が、連邦政府とビジネス関係にあるアガ・カーン4世所有のバハマ諸島リゾート地に相手方の経費全面負担によりクリスマスの休暇旅行をした際の問題—で幕を開けた。この問題は年間を通じて、自由党に伝統的なエリート主義であるとして度々批判され続け、昨年末のクリスマス直前に倫理委員会より、トルドー首相は利益相反法に違反していたと判断された。現職の首相が法律違反であると判断されたのは初めてであった。他にも、モルノー財務相の利益相反問題、セクハラによる閣僚の辞任、選挙公約の破棄(選挙改革等)、ベトナムにおけるTPP首脳会合の土壇場での不参加表明、中国やインド訪問の失敗等、いずれもトルドー首相の脇の甘さや政権運営の稚拙さに起因する失敗が目立った。

 特に今年2月のインド訪問の評判はすこぶる悪く、2月末から3月にかけて、トルドー首相に対するポジティブなイメージや国民の信頼は低下の一途を辿り始めたように思われる。3月上旬に公表されたイプソス社とフォーラム社の世論調査では、政権発足以来はじめて保守党が自由党をリードし、アバカス社の結果では、トルドー首相に対するイメージについて、ネガティブ(39%)がポジティブ(38%)を始めて上回った。しかし他方で、野党のシーア保守党党首とシンNDP党首の知名度は依然として高くないため、トルドー首相に対するネガティブなイメージが増えつつあるとしても、主要野党の党首はトルドー首相に十分に対抗できるほどの力をまだ備えるに至っていない。

4. 結びにかえて

 以上、連邦主要政党を概観しつつ、昨年のトルドー首相のパフォーマンスを簡単に振り返った。今年の内政的な注目点は、トルドー首相がどこまで中身のある成果を上げることができるのかという点に尽きよう。野党においては、保守党とNDPがトルドー首相にとってどこまで有力な対立候補となり得るか、また、BQ衰退が主要3政党にどのように影響していくかが注目される。

 人は、抱く期待が高ければ高いほど、期待が裏切られた時の幻滅や失望の度合いもその分大きくなる。最近のトルドー首相が直面しているのは、まさにその幻滅と失望である。そのような状況では、トルドー首相の楽観主義のスタイルは裏目に出かねない。だが、国民はそれでもまだ、若く明るいトルドー首相に期待を残しているはずだ。ぜひ3年目の今年こそ、イメージに中身が伴っていくことを祈りたい。

(在カナダ日本大使館専門調査員)

(関東地区ニューズレターNo.16, March 2018より転載)

 

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