HOME▶コラム▶訳書紹介:ミチコ・ミッヂ・アユカワ著『カナダへ渡った広島移民―移住のはじまりから真珠湾攻撃前夜まで』(和泉真澄訳、明石書店、2012年)(寄稿:和泉 真澄、関東地区ニューズレターNo.8, March 2013)

訳書紹介:ミチコ・ミッヂ・アユカワ著『カナダへ渡った広島移民―移住のはじまりから真珠湾攻撃前夜まで』(和泉真澄訳、明石書店、2012年)(寄稿:和泉 真澄、関東地区ニューズレターNo.8, March 2013)

訳書紹介:ミチコ・ミッヂ・アユカワ著『カナダへ渡った広島移民―移住のはじまりから真珠湾攻撃前夜まで』(和泉真澄訳、明石書店、2012年)(寄稿:和泉 真澄、関東地区ニューズレターNo.8, March 2013)

 本書は、第二次大戦以前に広島県からカナダへ渡った移民の歴史を記述している。原著者のミチコ・ミッヂ・アユカワは広島出身の一世の娘で、戦前バンクーバーの日本町で幼少期を過ごした。小学生の時にレモンクリーク収容所に家族とともに強制移動、その後東部で暮らし、キャリアを終えた後、ヴィクトリア大学で歴史学の博士号を取得した。本書の原書はその博士論文をもとに出版されたものである。


 本書最大の魅力は、著者が歴史研究のアカデミックな訓練と、移民社会のインサイダーとしての知識の両方を備えている点にある。移民個々人の体験を中心に記されてはいるが、読んでいると戦前の日系移民の日々の様子が生き生きと伝わってくる。史料に基づく歴史的背景の説明、日記や聞き取りに基づく移民個人の体験、さらには自身の記憶やコミュニティの内側からの視点によって、本書は日系カナダ人史を非常に多面的に描いている。
 第一章「ふるさと広島」は広島県が移民を送り出した背景を、第二章「初期の移民たち」は、広島移民のパイオニアたちについて記述している。広島移民は最初BC州の炭鉱に契約労働者として渡加したこと、彼らが当初の生活苦を乗り越え、やがて農業や商売へと進出していった過程が説明される。第三章「出稼ぎとその後」では、移民たちが次第にカナダの生活に順応していく過程が描かれる。広島移民が経営した下宿屋は同県人にとって、食住のみならず、心の安らぎの場を提供した。仕事の斡旋でも同郷人が優先されたため、移民にとって出身地のつながりは死活問題であった。第四章「女性の到来」では、移民の定住化を促進した女性たちの役割を描いている。当初短期の出稼ぎを予定していた移民たちも、カナダでの生活を安定化させるために結婚を望むようになった。その多くが写真結婚であったが、女性たちは実にさまざまな理由から移民を決断し、かなりの者が教育程度の高い、冒険心に富んだ女性であったことが本書の調査で明らかになった。しかし異郷での孤独な出産や育児、大勢の労働者の世話など、一世女性の生活は過酷なものだった。公的資料の少ない移民女性の体験を丁寧に拾ったこの章は、本書のなかでも特に精彩を放っている。
第五章「農業者たち」は、日系農業の発展について記述している。ヘネー農会の山家安太郎、南アルバータの岩淺一族など、広島出身者は農業呼び寄せ枠を用い、日系農業の発展に主導的役割を果たした。第六章「分裂する都市コミュニティ」では、労働運動と移民社会内部の階級闘争に触れている。移民のなかにはビジネスで成功する者もあったが、多くの労働者は伐採、製材などの非熟練労働者で、日系や白人の経営する会社や労働斡旋者(ボス)から過酷な搾取を受けていた。ジャーナリスト鈴木悦らを中心として展開した労働運動は、日系企業家と対立した。これまでエスニック単位で扱われがちだった日系社会の内部の多様性と階級対立に関する詳しい記述は貴重である。
第七章「二世世代」では、二世の登場と1930年代における日系コミュニティの発展を描いている。一世の推進した日本語学校や日本的道徳教育は、自身の出身階級の日本人の価値観ではなく、一世が日本の上流階級の価値観だと信じていたものに基づいていた、というアユカワの観察は非常に興味深い。
日系カナダ人の歴史は、これまで滋賀県と和歌山県出身者を中心に描かれてきたが、本書では、広島県からの移民がコミュニティの発展に果たした重要な役割が明らかにされている。とりわけ一世女性を扱った章、1930年代のコミュニティを扱った章などは、原著者の家族や自身の体験に基づくエピソードも多数紹介されており、また本書に掲載された写真の多くは著者本人の所蔵で、移民の生活を映す貴重なものが多い。
 本書は、「ぜひとも日本の親戚に読んでもらいたい」そして「日本の読者に日系カナダ人のことをもっと知ってもらいたい」という強い願いを持っていた原著者から、訳者が依頼を受けて日本での出版に至った。訳者はヴィクトリア大学に留学したご縁から、原著者には公私にわたってお世話になった。出版助成等が取れず、出版に思いのほか時間がかかってしまったが、研究者としてキャリアを築く過程で、長い間貴重な情報と温かい激励、さまざまな形のサポートを提供してくれた日系カナダ人コミュニティに対して、本書の日本語版の出版が少しでも恩返しになればと願っている。
(同志社大学)

関連記事

フォトギャラリー

ロイヤルオンタリオ博物館

ロイヤルオンタリオ博物館

ピックアップ

2015.5.7

『平原カナダの研究』(2012)がPDFでご覧いただけるようになりました。

日本カナダ学会の学際研究ユニットとして2006年から2011年まで活動した西部カナダ学際研究ユニット(第1期代表:原口邦紘会員、第2期…

ページ上部へ戻る