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BC州NDP予備選体験記(寄稿:岡田健太郎、関東地区ニューズレターNo. 6, March 2012)

C州NDP予備選体験記

岡田健太郎(関東地区ニューズレターNo. 6, March 2012)

 2011年10月、友人のスティーブン・フィリップスさん(ランガラ・カレッジ)の誘いで、BC州バンクーバーはフレイザー・ビュー選挙区のNDP州議会議員候補予備選に参加する機会を得た。この選挙区は、特にインド系、中国系といったエスニック・マイノリティが多く居住することでも知られており、予備選はエスニック票をいかに効率よく争奪するかが勝敗の分かれ目になるとされていた。実際に予備選に参加してみて、あらたなエスニック・ディバイドとも呼ぶべき、カナダ社会の構造変化を目の当たりにする思いだった。
  二人の予備選候補者は、いずれも中国系のガブリエル・ユー(NPO代表・市民運動家)、ジョージ・チャウ(前バンクーバー市議会議員)の二人で、ユーさんは前回州議会選挙に引き続いての立候補である。チャウさんは、市議会議員からの転身で、ディックス党首によって一本釣りされた「勝てる候補」との触れ込みでの突然の参戦だった。無風と思われていた予備選が、突如突風が吹く状況となったのである。この選挙区で長年地道な活動を続けてきたユーさん陣営にとってはまさに寝耳に水、急きょ体制を立て直しつつ予備選を戦うこととなった。
 BC州NDPの党員資格は、国籍や州民であることとは関係なく、単純に毎月の党費を支払っていればよい。そのため、かつての自民党のような、候補者による党員集めが積極的に行われており、実質的な予備選投票要員、幽霊党員も多いと思われる。ただ、新メンバーが投票資格を得るには、投票の90日前に会員になっていなければならならず、急に開催が決まった今回の予備選では、新メンバーを募る十分な時間がなかったため、基本的に現存のメンバーでの投票になった。投票は、投票所に実際に足を運んでなされることとなっており、郵送やインターネット投票は認められていないが、これは幽霊党員による投票を避けるためとされる。予備選大会そのものは、候補者演説、友人応援演説などへて最後に投票へ、というプロセスをたどり、投票するひとは、ほぼ一日を会場で過ごす必要があるが、単純に投票要員として動員されていたと思われる人々の熱気の薄さが印象的だった。
 今回の予備選の鍵は、実はインド系、パンジャーブ系の人々の動向だった。この選挙区のBC州自由党現職がインド系ということもあり、NDPにとってはインド系からの支持拡大が、次期州議会選挙の勝敗を決すると思われていた。落下傘候補チャウさんは、選挙区での支持拡大にあたってインド系社会のとりまとめ役と連携を図り、大量のインド系エスニック票を獲得することで、予備選を乗り切る構えだった。つまりチャウさん陣営は、昔のアメリカ民主党でのアイルランド系動員と同様の構図(「タマニー・ホール」などで知られる「マシーン」政治)を踏襲したということになる。実際予備選会場は、頭を布で覆ったインド系の人々で溢れていたものの、彼らには選挙の熱気は感じられず、3時ごろに始まった投票を終えると結果を待つまでもなく帰って行く人々がほとんどだった。いきなりガラガラになった予備選会場で、投票結果を聞くのは妙な気分だった。
他方ユーさん陣営支持者のほうは、エスニック的にバラエティに富んでいる印象だった。ユーさんの長年にわたる地道な活動の成果もあって、みなさんお互いに知り合いのようで、ユーさんを囲んで幾重にも語らいの輪ができていた。エスニシティと政治という微妙な問題へのかかわり方が、二人の候補者のあいだで大きく異なる様相は非常に興味深かった。
 選挙の結果は、投票総数234票のうち、ユーさんが130票を獲得してNDP候補者に内定した。結果を聞いたチャウさんの落胆ぶりが印象的だった。わたしにとっても、予備選会場でのインド系のチャウさん支持派の圧倒的存在感から、チャウさんやや有利を予想していたため、この結果にはびっくりした。マシーンによって動員された人々のなかには、投票の仕方が分からず、適当に◎をつけただけの人もいたのかもしれない。
 マシーンを用いたチャウさんの戦略は失敗したものの、このささやかな予備選を通して感じたのは、エスニシティを動員する、古くもあたらしい政治の有り様だった。バンクーバー郊外地域など、アジア系移民がエスニシティごとに集中して居住する地域では、これまでに想定もされなかった、あらたな「カナダ」の政治が展開されつつある。中国系二人の候補者、予備選に集った様々なエスニック集団などを見るにつけ、もはやマイノリティとも言えなくなりつつあるアジア系移民層とカナダ政治との関係は今後どのようなものになってゆくのか。その晩は、そんなことを語らいつつスティーブンさんと杯を重ねた。
(前バンクーバー総領事館専門調査員(当時)、現在は神奈川県立国際言語文化アカデミア講師)

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