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自著紹介:『ケベックの女性文学-ジェンダー・ エクリチュール・エスニシティ』 寄稿:山出裕子

『ケベックの女性文学-ジェンダー・ エクリチュール・エスニシティ』 山出裕子著 彩流社 2009年 (定価2200+税) ISBN 978-4-7791-1433-5

山出裕子(明治大学兼任講師)
 本書は、ケベックの女性による文学と文化を考察、分析している。近年、日本でも、ケベックに関する研究が進んできているが、女性史や女性文学に限ったものは、まだ見当たらない。一方で、昨今の、ケベック研究、カナダ研究、そして、文学研究全般において、女性学や女性の文学は、主要なテーマのひとつとされる傾向にある。ゆえに、北米のケベックの女性文学の特徴について分析している本書は、さまざまな研究分野の発展に貢献することが期待される。
 本書の第1章では、カナダ政府が文化政策として掲げてきた「多文化主義」が成立する過程と、それによってもたらされた、ケベック社会近代化ヘの影響について論じている。また、ケベックでは「複数民族性」という概念が好んで用いられるが、カナダ政府の掲げる概念との違いやその文化的背景についても説明している。さらに、社会の近代化と同時期におこった、ケベックの女性運動とその後にもたらされた女性文化の発展の過程を論じている。
 第2章と3章では、フェミニズム文学について分析している。まず、第2章では、ケベックの近代化運動が盛んになった、1960年代直前に書かれた女性作家に注目し、この時代の代表的な作品について分析している。これはまた、ケベックの文化革命を別の視点から考察しているといえ、これまでとは異なる視座をケベックの歴史研究にもたらしているという点で、大変に興味深い。また、第3章では、1980年代に発表された、ケベックのフェミニスト文学について紹介している。特に、この時代には、女性による自伝文学(または自伝的作品)が多くみられ、それがこの時代のケベック文学の、一つの大きな特徴にもなっている。さらに本章では、それが以降のケベック文学に大きな影響を与えたことについて強調している。
 第4章ではカナダの多文化主義と一線を画する、ケベックの「複数民族性」が作り出した文化の特徴について論じている。その一例として、この章では、英系ケベック文化と英系モントリオール文学の特徴について紹介している。英系が少数民族(マイノリティ)の立場になるのは、ケベックの特徴であり、マイノリティとしての英系ケベック文学に、マジョリティとしての仏系文化が大きな影響を与えることで、ケベックの英系文学には、独自の特徴が作られているのである。このことは、もっと注目されて良い、ケベックだけでなくカナダ文化全体の特徴でもあることを、本章の分析は提示している。
 近年のケベックの移民文学では、いわゆる「新移民」といわれるような、ケベックには、比較的、最近移民するようになった移民(アラブ系、アジア系)作家たちの作品が注目を浴びている。ゆえに、本書の第5章と6章では、近年のケベックの女性文学の特徴でもある「(新)移民の文学」に注目し、それぞれの作品のもつ特徴とそれがケベックの文学にもたらす文化的多様性の意義について論じている。
 第5章では、1980年代に移民としての数が増加し始め、ケベックの社会や文化にも存在を顕にし始めた、アラブ系の女性作家たちの作品に注目している。さらに、第6章では、特に1990年代以降に、作品が見られるようになった、中国系のイン・チェンや日系のアキ・シマザキなど、アジア系の女性作家の作品について論じでいる。これらの比較的ケベックには「新しい」移民の作品が現れたことで、ケベックの文学の文化的多様性や混血性はさらに進んでおり、それが近年のケベック文学の大きな特徴になっている。そして、これらの女性文学に見られるようになった、ケベック文学の新たな特徴は、今後、ケベックの文学全体の発展に貢献するであろうことを、本書では強調している。
 以上のように、この本では、ケベック女性文学の起源から現在までを辿っている。そうすることで、従来のケベック研究の中では、はっきりと描かれていなかった、ケベックの女性たちの姿、その文化の変容と発展を明らかにすることが本書の大きな目的である。
 なお、本著は、『ジェンダー研究』第12号(2009)、『ケベック研究』第1号(2009)で書評されているほか、学会誌、会報、大使館関係機関紙等で広く紹介、評されている。

(関東地区ニューズレター第3号〔2010年5月刊〕より転載)

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