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訳書紹介: ヴァレリー・ノールズ(細川道久訳)『カナダ移民史――多民族社会の形成』明石書店、2014年1月刊(関東地区ニューズレターNo.10)

訳書紹介

ヴァレリー・ノールズ(細川道久訳)『カナダ移民史――多民族社会の形成』明石書店、2014年1月刊 

細川 道久

 日本では移民国家カナダに対する関心が高いにもかかわらず、カナダの移民と移民政策の歴史を長期にわたって包括的に論じた通史はなかった。もちろん、日本人(日系)移民をテーマとした書物は多数刊行されているが、日本人移民を含むさまざまな移民集団の歴史を網羅的に扱った書はなかった。そのため、例えば、カナダの移民・移民政策史をテーマに研究したい学生に、手始めとなる適切な書を薦めることができずにいた。そこで思い立ったのが、翻訳書の刊行であった。

 選んだのは、Valerie Knowles, Strangers at Our Gates: Canadian Immigration and Immigration Policy, 1540-2006, rev. ed., Dundurn Press, Toronto, 2007. 大航海時代から現代までの4世紀半あまりを長期的に展望し、それぞれの時代に到来した移民集団の特徴や、時代ごとの移民政策の内容をわかりやすく論じた書である。本書のすぐれた点は、コンパクトにまとめつつ、種々の史資料から政治家の発言、報告書や新聞雑誌の記事など引用し、当時の状況をできるだけ具体的に描こうとしたことにある。随所におりこまれたエピソードや、図像やコラム記事とともに、当時の移民や移民社会の姿がイメージしやすいよう工夫が施されている。カナダでは、1992年の初版以来、移民史・移民政策・多文化主義を学ぶうえで有益な書物として、多くの大学などでテキストや副教材として採用されている。私自身も、初版から第3版まで、常に手元においてきた。なお、訳出したのは、第3版である。

 本書を通して、多民族国家カナダの成り立ちについて、いつ、どこから、どこに、いかなる移民が到来したのかを具体的事例から理解することができるし、カナダがいかにして人種主義的な政策から多文化主義的な政策へと転換していったのか、さらには、今日の移民社会と移民政策にはどのような問題点があるのか――多民族共生・多文化共生はもとより、高齢化社会への対応や経済力強化といった課題が、難民を含む移民の受け入れのあり方といかに密接に結びついているか――についても理解を深めることができよう。

 著者は、優れたフリーランス・ライターで、移民・移民政策に関しては、Forging Our Legacy: Canadian Citizenship and Immigration, 1900-1977, Public Works and Government Service Canada, Ottawa, 2000.をはじめ、政府諸機関の刊行物を数多く委嘱執筆している。その他、多数の著作があり、このうち、カナダの鉄道王William C. Van Horneを扱った書は、ブリティッシュ・コロンビア大学メダル(カナダ伝記部門)、オタワ市ノンフィクション作品賞、カナダ鉄道史学会賞を受賞した。

 光栄にも、明石書店には「世界歴史叢書」の1冊として刊行をお引き受けいただいた。カナダの移民史・移民政策史に関心を持つ初学者に(もちろん、ベテラン研究者の方々にも)是非ご一読を乞う次第である。(鹿児島大学)(関東地区ニューズレターNo.10, March 2014より転載)

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