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自著を語る:『カナダの商工業者とイギリス帝国経済 1846-1906』(関東地区ニューズレターNo.11)

自著を語る:『カナダの商工業者とイギリス帝国経済 1846-1906』(刀水書房、2014年、6500円+税)

福士

 拙著は、19世紀中葉から20世紀初頭の時期にイギリス帝国経済構造内においてカナダがいかなる経済発展の方向性を模索していたのかを商工業者の観点から検討することをその目的としている。近年のカナダ経済史研究では、対米関係を重視する傾向にあるが、私が拙著にて重視する論点は近年の研究において周縁化されているカナダ経済発展におけるイギリスと帝国地域の意義の再評価という点である。

 その際、注目するのはイギリス本国と自治植民地の間での文化、アイデンティティを共有することによる感情的紐帯である。2000年代以降蓄積されつつあるイギリス本国・自治植民地間のブリティッシュ・アイデンティティによる結びつきに着目する研究は、植民地を「中核」たる本国に対する従属的な「周辺」として理解するのではなく、本国と同様に帝国の支配を支える「中核」の一つとして捉える視点を提供している。

これらの研究成果を踏まえて、拙著ではカナダの商工業者は本国・自治植民地間の経済的紐帯を補完し、強化すべく、ブリティッシュ・アイデンティティに基づく感情的紐帯といった言説を利用したのであり、彼らが経済発展による帝国からの分離ではなく、自ら率先して帝国の統合強化に尽力し、その内部における経済大国としての発展を志向していたのではないかという議論を展開した。しかしながら留意すべきは、当該期のカナダ商工業者はこの感情的紐帯の言説をその時々に応じて恣意的に利用したということである。彼らは、イギリス本国に対しては、「帝国第二の工業国」としてその同質性を主張し、帝国経済構造内におけるもう一つの「中核」となることを訴えた。他方、彼らは他の自治植民地を「工業国」カナダとは異質な「一次産品供給地」と捉えており、その関係を垂直的分業関係によって理解していたのである。このようなカナダ商工業者が望む帝国経済関係を構築する手段とみなされたのが帝国特恵関税であり、それは感情的紐帯で結ばれた本国と自治植民地を、貿易という経済的紐帯で結びつけるものとして考えられたのである。

それゆえ、拙著は19世紀後半から20世紀前半におけるカナダ経済史研究を考える際には、近年等閑視されているイギリスや帝国との関係に今一度目を向けるべきと提起するのである。無論、拙著の議論において多くの問題点が残されていることは承知している。それらの問題点も含め、皆様からのご批判を仰ぎ、今後の研究の糧としていきたいと考えている。(岡山大学)(関東地区ニューズレターNo.11, Sept. 2014より転載)

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