国旗

赤と白の鮮やかなカエデの国旗をめぐる論争の経緯について見てみよう。カナダのある雑誌社が、かつて「あなたがカナダ人として最も誇りに思っているものは何ですか」という読者アンケートをしたことがある。答として、有名人、発明発見、芸術などの文化資産、カナディアン・ロッキーなどの雄大な景観が挙がっていたが、メイプル・フラッグもその一つであった。この国旗は今でこそカナダの象徴として国民に愛されるようになったが、1965年に国旗として制定されたときは、これほど早く定着することを予測できた人はほとんどいなかったに違いない。

カナダは、1867年に建国されたが、長い間独自の国旗をもっていなかった。第2次世界大戦の前までは、英国国旗(ユニオン・ジャック)で代用していたが、国民の3割を占めるフランス系住民には何とも目ざわりであった。しかも英国系もフランス系も海外戦線で肩を並べて戦わなければならなくなった第2次世界大戦では、赤地の左肩にユニオン・ジャックをあしらった英国商船旗にカナダの紋章をつけた旗が用いられた。

ところで、英国にもフランスにも片寄らないカナダ独自の国旗を持つべきだという議論は、何度もあったが、感情的な問題がからんでなかなか実現しなかった。ようやく1964年5月に、ときの首相ピアソンが具体的提案をしたが反応は思わしくなく、野党の議事妨害作戦に業をにやしたピアソン政権は、全国からあらためて国旗のデザインを募集した。約2,000件の中から選ばれたのが、現在の国旗である。しかし保守党のディーフェンベーカーは議事を妨害した。政府はこの国旗論争の終結を宣言し、決定したのは、1964年12月31日であった。祝砲も花火もなく、国民はあっけないほど静かに新しい国旗を迎えた。国旗掲揚式が行なわれたのは、1965年2月15日である。

(杉本公彦)

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